ねぐらの部屋
(セブ島南部の観光地『カワサンの滝』)
フィリピンは長い夏休み(3月から5月)が終わると、学校とその周りがにぎやかになるが、家の近所は静かになる。
何しろ日本と違い皆さん子沢山だ、太陽が真上にある(つまりほぼ北回帰線上)熱い夏休み中は、毎日うるさいのだ。
さて、フウテン一家の部屋。
クラブハウスのこの部分は、キッチンや物置と同時に最初に仕上げたい。
理由は早く引っ越して、1日中ビッシリと現場にアテンドするため。
作業が細かくなってきて、一人では足りない。
奥様と二人で、一日中工事を見張らないと。
早く引っ越せば。仮住まいに払う家賃も節約できる。
更には、タイル貼り、ペンキ塗りなどの工程をこの部屋から始めることによって、彼らのスキルをチェックする為だ。
失敗しても、この部屋なら他のゲストルームとかより気分的に楽だし、職人達も慣れれば多少は上手くなるだろう。
そんなわけで、床のタイルを早々に貼ったことは、以前書いた。
しかしと言うか、予想通りというか、今この部屋は惨憺たる状況になっている。
取り付けたコンセントやスイッチの部分の、壁の仕上げをモルタルでする。
→床タイルがセメントのガラだらけになる。
天井のペンキを塗ると、高い場所を塗るので、ごつい足場を置き移動に引きずる。
→タイルがペンキで汚れる。
→スクラッチ(引っかき傷)だらけになる。(つや消しタイルで良かった。)
壁のペンキを塗る。
→上に同じ。
何しろ、ペンキ塗りする時でも、フウテンがいちいち指示しないと、壁の電気スイッチやコンセントのカバーを外したり、養生したりしない人たちだ。
黙っていると、冗談でなく、それらも一緒に塗ってしまうフィリピンの田舎スタイルなのだ。
シッチャカ、メッチャカだ。
日本人の綺麗さの基準と、彼らの基準の差は非常に大きい。
彼らにとって『合格』でも、我々にとっては全然ダメ『不合格』なのだ。
せっかく貼ったタイルだが、その上で作業。
目地の隙間は砂と土で埋まってしまった。
つや消しタイルでよかった。光沢なら表面はスクラッチで滅茶苦茶だ。
(シャワールームとトイレの仕切り壁の上部)
床から1.8m上、どうせ見えないからいいと思ったのか。
雑な仕上げと飛び出した鉄筋。
我が目を疑うくらいだ。
冗談じゃない。
このまま使えば、1年以内に湿気で鉄筋が錆びて膨張し、壁・タイルがひび割れる。
スイッチボックスのカバーを外さずに、壁に中和剤と下塗りを塗った。
(小学校低学年レベル?)
外して塗りなおし、カバーはペンキを落とし、きれいにしないといけない。
(セメントとペイントでひどい有様のドア蝶番の一例)
(ここは私が慌ててマスキングした)
(その後、彼らのしたマスキングの一例)
この状態では壁は塗れるが、ドア枠は塗れない。
もう一度マスキングする必要がある。
テープと人件費が無駄。
天井と壁の角のモールディング(飾り木)のペンキ塗りの為に、彼らがマスキングした。
使用塗料はオイルステインなので、するなら、よほど上手くマスキングしないとテープの隙間に塗料が染み込み、よけい汚くなる。
テープを剥がしたあと、今度は壁と天井の縁を塗りなおさないとならなくなる。
この場合はマスキングせずに塗るのが正解だが、それはウチの『職人』たちには無理な相談だ。
上の彼は、急遽雇ったペンキ屋さん。
当たり前だか、テープを張らずに木部のモールディングだけを塗れる。
日本人ならチョット器用な中学生で塗れると思うが。
・・・・・・
全部はここに書ききれない。
ゲリラ戦を戦っているようだ。
現場じゅう問題だらけで、始末に終えない。
しかしヤケを起こしては負けだ。
根気良く、モグラ叩き作戦で行くぞ。
とは言え、まぁまぁこう段取りが悪いと、掃除や後始末が大変だ。
前にも書いたが、私フウテンオヤジと奥様は地元にカネを落としたいから、ダメ職人でも地元の村人だけを雇用している。
村人は、都会に働きに行ったり、海外に出稼ぎに行く技量や勤労意欲に乏しい、言っちゃ悪いが、”文明社会”の規範ではダメな連中が多いのだ。
だが知り合えば、ほとんどはとても気のイイ連中、私は彼らが好きだ。
日本語でも、『地産地消』という言葉もあるが、比国の地元を出て行く連中だけが成功するという図式だと、地方の村々の人々は百年経っても貧困。
都会と田舎の格差は広がるばかりだ。
フウテン一家の財力などタカが知れているが、近所の連中に手間賃としておカネを払えば、彼らとその家族は潤うのだ。
ここらの田舎職人には、”鉄筋コンクリート2階建て”を建てた経験など無い。
だから彼らには、貴重な体験となる。
ウチは、彼らの”職業訓練所”になっても構わないのだ。
何故なら私はこの国で『外人』だが、この国の田舎の風土と人々に、既に(この時点で)10数年生かして貰っているのだから。
借りを返していく、恩返しだと思えば、どうと云う事はない。