遅刻はない、という異常な連中
(敷地内の海際からウチの海を見る)
まだ『ビーチリゾート』とは言えない。
これは云わば、『現場』だ。
うちの現場は、朝7時からスタートする。
朝食を食べながらクラブハウスのラウンジの窓から外を見ていると、だいたい6時40分を過ぎると、まずペンキ職人のKがやって来る。
すると、まるでそれが合図のように、ゾロゾロと他の連中もご入場となる。
溌剌(はつらつ)と歩いて来る者、颯爽(さっそう)と自転車で乗り付ける人。
それぞれクラブハウスの脇を通って、海辺のコテージの現場へ向かう。
エンボイなどは、サイクリングでもしているように、なぜかニコニコしながらペダルをこいでいるのだ。
遅刻が無いことはないが、せいぜい12人中1人、しかも1週間に1回くらい10分以内だ。
これはこの国では「どうしちゃったの?」というくらい、異常な光景なのではないか。
何故なら、フィリピンにはあの、知る人ぞ知る「フィリピンタイム」というものがある。
つまり、だいたい30分から1時間くらいは出勤時間に遅れて当たり前。
ウチのスタッフは腕時計も持ってないのに、時間より少し前に全員揃うのがすごい。
だいたいフィリピン人に限らないが、人は労働というものを元来好まない。
何かの為に仕方ないから働く、一種の義務的な行為だと思っているのが一般の労働者だ。
特に欧米のキリスト教的考え方では、アダムとイブが、エデンの園で悪魔の実を食べて神の怒りをかい、楽園を追放された。
以来神は、女には出産の苦しみ、男には労働の苦しみ、等々を人間に科した。
という教えがあるので、労働は苦、義務という意識でしている人が多いと思う。
ちなみにフィリピン人の95%はローマンカトリックをはじめとするキリスト教徒である。
かく申す云うフウテンも、20数年間の日本でのサラリーマン時代があった。
混雑する通勤電車や夜間残業、休日出勤、長時間労働、うんざりしたことも限りない。
もちろん、私の世代は団塊の世代の末弟であるから、同僚より早く出勤すること、より多くの仕事をこなすこと、休日も休まないことなど、短的に云えば、1に仕事、2に仕事、3,4がなくて5に仕事と、ワーカホリック然と生活のほとんどを仕事に奉げた時期(←ほんの数年)もあった。
しかしここフィリピンの、まして田舎ではそんな事はブタが空を飛ぶくらい、あり得ないことなのだ。
うちの現場でも、当初は時間にルーズなフィリピンスタイルであった。
格別に厳しく注意したわけではないが、最近は上記の有様だ。
そして、仕事中のサボりも極端に少なく、材料切れなどで仕事が途切れると、すぐに自発的に次の仕事を始めている。
オイ、おい。
どうしちゃったの?
ここはフィリピンじゃなかったっけ。
前にも書いた気がするが、この国の人々としては珍しい連中が集まったような、うちの現場である。
あるいは、最近は断行していないが、フウテンの容赦無い首切り恐怖政治が効いているのか。
そのうち朝のラジオ体操でもやったるか、などと半分本気で考えてしまうフウテンオヤジである。