大失敗した大棟梁エンボイ
(クラブハウス建築現場にて)
画像のチビはウチの1号、当時現地の小1、今現在は身長180越えの日本の高校生。
さて、よく記事に登場する棟梁のエンボイ。
この度、『田舎の大棟梁』のあだ名に恥じない、今まででも最高の大失策をしでかしてくれた。
経緯(いきさつ)はこうだ。
仲良し2人組のエンボイと巨匠ドドンと組んで、ドア枠を施工していたことは、前に書いたと思う。
19枚、全てのドア枠を嵌めてから、まず規格外の手作りドアを作成し蝶番で取り付けた。
この規格外のドアには、幅の狭いメイドルームやそのトイレ、倉庫のドアなどがある。
良質の角材と防水ベニヤで手作り、彼らにとっては手慣れた仕事だ。
(エンボイとドドンの手作りドア=これが田舎の民家の一般的なドア)
2人とも叩き上げの職人なので、難なくこなした。
あとは丁寧にペーパーやすりをかけ、ペイントしてドアノブを取り付ければOKだ。
大失策はその後だ。
セブ市のホームセンターで購入してきた、14枚のドアの取り付けでやってくれたのだ。
エンボイ:「このドアの中は、こんなふうになってるんだ!」
エンボイ:「木はこれだけしかないぞ、外側はダンボールみたいじゃないか!」
と、例のモウルデッドドアのそばで、ブツブツと大きな声で独り言。
*モウルデッドドアとは・・・・以前書いたが、木製の普通のドアのように見えるが、角材の桟に木材チップ、パルプなどを圧縮成形したパネルを張ったドア。
長所は、見た目=デザインがキレイ、正確なサイズ、軽い、丈夫、値段は無垢板ドアの半額。
・・・これは職人たちには、前もって説明してある。
私:「ナンダ、なんだ、どうしたエンボイ」
と私はヤツのそばに行き、・・・見てみると、ドアの下部分を3センチほどノコで切ったようだ。
私:(えッ・・・???)
そして中をのぞきながら、エンボイは上のセリフをのたまった。
(ドアの下をノコで切断するエンボイ)
(ドアの内部は)
私:「何でドアを切ったんだ?」
エ:「ドアが長すぎるんだ。」
私:「オイ、マテ、待てよ! ドアの規格は全て高さ210センチだろ。」
「それ以上あったのか?」
エ:「ピッタリ210センチだ。」
私:「じゃ、なんで切るんだ!」
エ:「ドア枠の高さが、210センチだから。」
私:「だから、切ること無いだろ!」
エ:「床にタイルを貼るとドアが嵌まらない。」
私:(このヤロウ!・・・心の中で)
なんと、ドア枠の高さを、210センチピッタリで作ったようだ。
私は、唖然として、数秒間上を見たり下を見たり、左右を見たりした。
エンボイと目を合わせると、怒りが爆発しそうだからだ。
(ここフィリピンでは、人前で叱る事は、絶対してはいけない事のひとつだ。)
分かりにくい方のためにご説明すると、ドアは高さ210センチだが、床にタイル張りの工程が残っている。
だから、タイルとモルタルの厚みとドア下の若干の隙間を考慮し、当たり前のことだが、213センチくらいの高さでドア枠を作らないといけなかったのだ。
私:「それで、全部を210センチ高さで作ったのか?」
エ:「イエス。」
(コノヤロ~、普段は「イエッサ~!」とか言うくせに、こういう時に限って。)
(ここが日本で、お前が日本人だったら、タダじゃおかない)
私は苦心して心を冷静に保ち、クラブハウスの全図面を思い浮かべて考えた。
ドアの内と外で床に高低差のあるところで、低いほうに開くドアは、ドア枠の下のコンクリートをハツれば、ドアを切る必要が無いだろう。
とすると1,2,3、・・・。
でもやはり10枚ものドアを、切らないといけない。
私は、ドアと横枠の見苦しい隙間は嫌いなので、実は横幅はチェックしていたのだが・・・まさか縦サイズがそんな事になっているとは・・・。
このモウルデッドドアは、普通のドアと違い、改造加工に対応するようには作られていない。
チップを固めた素材で成形し、中は空洞なのだから。
ドアの下端なので目立たないが、もともとモノコック構造なので、ばらした場合の耐久性は、疑問が残る。
だがノーチョイス、10枚のドアを無駄にするわけにはいかないし、他にいいアイディアは浮かばない。
やるしかないが・・・・”大棟梁”のくせに情けない。
以下、切った部分から枠木を外し、形を整え接着した。
(黄Tシャツのエリックは、横で見てみないフリをしている)
(エンボイのこの目は、自分で自分に怒っているのか・・)
写真を撮っているだけでも腹が立ってくるが、見ているだけならもっと腹が立つだろう。
私はエンボイの仕事に関しては、ある程度信頼を置いているので、他のワーカーほどチェックを入れていなかったのだ。
だいたい、今の現場の状況はエンボイチーム16人、水道配管チーム2人、電気配線チーム3人、天井張りチーム4人、合計25人が作業している。
私は委託工事である天井チームの4人を除き、あとの図面の読めないほぼ全員に指示を出し、監視して、ミスをチェックするのに忙しいのだ。
これは喩えて言えば、25人の鬼を相手にした果てしない『鬼ごっこ』のようなものである。
はたまた、25の穴の有る『モグラ叩き』さながらなのだ。
その中で、ある程度任せて安心、と思っていたエンボイにしてやられるとは・・・。
フィリピンでは、今更ながらだが、誰も信頼してはいけないと再確認した次第である。
今回のエンボイのミスは大きいが、彼には今までの功績があるので、総合的に評価して、マイナスにはならない。
それにしてもフィリピン人だ。
こんなことをしても、謝ることはしない。
それどころか、モウルデッドドアの構造がどうのこうのと言い訳し、はじめは、話のポイントをずらそうとした。
内心ではエンボイも『しまった!』と思い、職人としてのプライドがゆらいだろうか?
苦々(にがにが)しげにドアをカットしているところを見ると、多分そうなのだろうか?
そうであればいいのだが、そうでなければ、この国の多くの人たちと同様、彼にもこの先の進歩はない。
末筆ながら、彼の名誉のために繰り返すが、エンボイはうちの棟梁だ。
一人の職人としてみても、彼の経験と知識、リーダーシップはスタッフの中では、ピカイチなのである。
今後の彼の仕事のキャリアに活きるミスとして、失敗から学んで欲しい。
資材は全部ウチが買っているし、彼らは日給月給。
つまり、どれだけ損失を出してもウチが背負うだけだから、彼らには、せめて仕事を覚えて欲しい。
蛇足ながら、私はこの国に何年も住んで、この国の高カロリーな食生活&飲んだくれでも全く太らない。
フィリピンに来てキチンと仕事をしている日本人で、『太った』という人を私は今日まで1人も知らない。