イガグリあたまとインディアン
(やって来ちゃった水道屋さん)
左の名前は〇ネ、右の助手の名前は〇〇ヤーノという。
判りにくいので、ここでは見た目通り、「イガグリあたま」と「インディアン」ということにしておこう。
「イガグリあたま」が親分で、「インディアン」が子分。
前回書いたように、御多分に漏れず彼らも、図面が読めない職人(この国では普通)だ。
したがって工事は、次のようにオゴソカに進行していくのだ。
1階のトイレの場所にて・・・。
私: 「(床をさし)ここにトイレを設置するんだ。これが排水の穴だ。」
「ここに洗面台を固定する。排水口はここにある。」
「ここがトイレで、ここに取り付ける便器は後ろに水のタンクが付いている。」
「用が済んだらレバーを動かすと、自動的にフラッシュ(水が流れる)タイプだ、すごいだろ。」
(この辺の民家の多くは、自分で大バケツから手桶で水を汲んで流す型なので、説明する必要がある。)
「だから、まずこの壁のこのところに(と言ってクレヨンで印を付けながら)穴を開けて欲しい。」
インディアンがハンマーと手製のボロいタガネで、穴を開けた。
(デ、デカィ!)
私: 「オイ、オイ、なんだそのでかい穴は、お前が通るんじゃないんだ。ハーフインチの水道管を通すだけだぞ。今度からは、もっと小さい穴でいいからね。」
インディアン: 「ファ~、ふあ~、ンガ~ァ!」
私:(・・・・・)
実はこの助手は、スペシャルな人で、頭が少し弱く、耳が遠く、言葉が不自由なのだ。
時々は嬌声も発する。
初めてその様子を見た私は、こりゃとんでもないのを入れちゃったと後悔したのだが、付き合うとなかなか面白いし、顔見知りになると結構いい奴だ。
他の職人達も、面白がって話しかけ、ちょっとしたアイドルだ。
こういう人達を差別したり、特別扱いしないのは、フィリピンの良いところだ。
(『バカ』とか『つ〇ぼ』とかあまり言わないし、卑下もしない)
私: 「で、その先にエルボーをかませ、GI(パイプ)を〇〇センチ伸ばし、ティーをつなげ、片方は洗面台の給水、先はトイレタンクのほうの給水。(と言いつつ、子供のクレヨンでマーク)」
イガグリあたま: 「オーケー。」
私: 「エルボーとティーのあいだにボールバルブを取り付けるから、その分パイプを短くして、両端にダイスでオスねじを切ってくれ。」
「パイプエンドの給水場所は、ココとココ(と言ってクレヨンで印)で頼むよ。」
イガグリ: 「オーケー。」
私: 「壁はこの後に仕上げしてタイルを張るから、〇センチの隙間をあけてよ。」
イガグリ: 「オーケー。」
こんな感じで、まずその部屋のだいたいの配管プランを説明する。
イガグリとインディアンは、ひとつのパーツを作りつなげ、また次のパーツを作りつなげ、という風にやっていく。
一度に全部作っておいて、バババッと配管を組むことはできない、彼らには高等すぎる。
したがって、非常に効率が悪い。
私は何のことはない、目を離すと間違える(彼らの思い通りに作る)ので、付きっ切りで作業を見守り、確認しないとならない。
この2人の漫才のようなやり取りを見物しながら。
(面白いが疲れる・・・)
私は、合間に他の現場作業の監視も必要だ。
エライコッチャだ。
配管が必要な部屋は、1階に5、2階に1、全部で6箇所ある。
(楽しそうなイガグリとインディアンの様子、これで腕が良ければなぁ・・・)
ところが・・・・・
4時を過ぎると、『もう帰らないといけない』という。
私: 「オイオイ、お前ら来たのは午後1時半だろ。まだ来たばかりだよ、もう帰っちゃうの?」
イガグリ: 「そうだよ~ん。」
私: 「なんで? 奥さんが待ってるからか?」
イガグリ: 「バーべキュ~の用意をしないと・・。」
私: 「??・・・?」
イガグリ: 「毎日夕方5時に市場で屋台のBBQ(バーべキュ~)ショップを開けるんだ。」
私: 「チョット待て!ひょっとして・・・本業はBBQ屋か?」
イガグリ: 「そうだよ、配管の仕事はたまにしか無いから、食っていけないんだ。」
イガグリ:「14年前にアメリカ人が、配管用の工具をくれたので、たまに配管工事の注文がくるんだ。」
(アメリカ人に貰ったという工具)
私: 「そうか~そうか(微笑みながら日本語で「このやろ~め」)、今度食べに行くから場所教えてくれよ。」
イガグリは嬉しそうに説明し始めた。
(イガグリがエリックにユニオンバルブのばらし方を聞いている・・・コノやろ~どっちが水道屋だ!)
なんてこった!
いくら田舎男でも専門知識が無さすぎると思っていたら、イガグリはBBQ屋のおやじだったのだ。
BBQ屋のおやじが配管工をするとは、フウテンおやじが現場監督をするより、罪が重いとは思わないだろうか。
”職業詐称”だ。
私が『百叩き』だとしたら、イガグリは『遠島の刑』に値する。
私フウテンは、当分彼らから目が離せない。
あとふたつばかり、身体が欲しい。
それに、インチキ水道屋のBBQも食べに行かなくっちゃ!