ドタバタ電気工事の始まり
(ウチの海の夜明け)
毎日、何十年も見ていても、やはり海は気が休まる。
日の出も飽きない。
朝あちこちの夜間灯を消して歩き、赤い光に自然と掌を合わせてしまう。
さて、工事には『段取り』というものがある。
例えば、電気配線を壁に埋め込むので、配線が終わらないと壁の仕上げが出来ない。
壁の仕上げが出来ないと、天井が張れない、床のタイルも貼れない。
壁のペンキもぬれない。
電気配線がすまないと、要するに他の工事の妨げになるのだ。
ところが、それを承知のはずの電気屋さんの親方Fは、工事の約束をちっとも守ってくれない。
今のフウテンに、もし人より優れているところが有るとすると、それは、『フィリピン人を見る目』かも知れない。
私がそこそこ年をくってる所為も、あるかも知れない。
あるいは日本サラリーマン時代に、多くの初対面の人と接する仕事を20年以上経験したから、かも知れない。
とにかく、この電気屋の頭Fに最初に会って話した時、「アノ男は、要注意だよ。」と奥様Mにも伝えたくらいだ。
しかし、ガイジンよそ者の私としては、電力会社直轄で、この地域の電気関係を統べる彼を最初くらいは使っておかないと、あとがマズイ。
そういう配慮もあって、割高の彼に工事を発注したという経緯もあったのだ。
私の悪い予感が的中した。
「前の現場が遅れて人を回せない。」
「雨が降ったので、山の上の道が崩れ、職人が来れない。」
「フィエスタ(お祭り)があるので、職人が休みになる。」
・・・・
などと盛りだくさんの言い訳を拵えて、仕事が全然はかどらないのだ。
やっと来ても一人だけだったり。
マア、フィリピンなのでこの程度のことで腹を立てていては、身が持たない。
しかし、ところがギッチョン、ネゴシエィター奥様Mは、容赦しない。
Fの家に電話をかけ、Fが不在なら家族に文句を言う。
Fを現場に呼びつけ、釈明を求める。
果ては、電力会社にFに関して、苦情を言うところまでいきそうになった。
小心で温厚なフウテンは、マァマァ、マァ、ドゥ、ドゥ、ドゥと、奥様Mのたてがみを撫で、首筋を叩き、なだめていたのだ。
さて、仕事はといえば、
*壁にコンクリート釘でせっせと穴を開ける。
これは、スイッチボックスやアウトレットボックスとその配線を埋めるため、そして照明用の配線を埋めるためだ。
*配線を通す。
*スイッチボックスや電線を埋めた後は、またせっせとセメントで固定する。
(まだボックスの穴あけとボックス埋めをしていないのに、エンボイチームは壁の仕上げを始めてしまう、2度手間になる)
(すぐ近くのスイッチなのに高さと柱からの距離が違う、やり直し)
(やり直し後)
(これもやり直させたが、高さがまだいまいち揃っていない)
(力が余って、壁をぶち破っている、あとでセメントで埋めるから問題ないが、材料と手間が無駄になる)
(ヒューズボックス)
(実は私のつけた印=S3とS4=のように、ヒューズボックスは2箱必要なのに、穴はひとつしか開けられていない。これもやり直しだ)
これだけの事なのだが、何せ手仕事、時間がかかる。
私フウテンは、全ての材料を見積もり発注して、揃えてあげる。
図面が読めない彼らのために、100箇所以上あるそれぞれの場所に印をつける。
印は穴を開ければ消えるので、そのあとにはテープで例えばスイッチの種類を明記したりして、万全のフォローアップをしているのだ。
アウトレット(コンセント)やスイッチの床からの高さも印をつけ、さらに口頭で指示している。
私が、彼らから手間賃を貰いたいくらいだ。
しかし、せっかく仕上げた壁に穴を開けたり、印と違う場所をハツッたり、高さを間違えたり、全く非効率的なのだ。
これらの仕事ぶりは、日本のプロが見たら、へそで茶を沸かすに違いない。
しかしここはフィリピン、電動工具を使えばあっという間でも、電気代と工具の減価償却・ドリルビットなど消耗品代を吟味すれば、人力のほうが安いのだ。
こういうグチ文句を書いていると、果てしなくて、気が滅入ってくる。
酒喰らって、もう寝るぞ。