バルコニーを広げる
クラブハウス2階の、正面中央にはバルコニーがある。
2階の3つのベッドルームからそこに出るドアを計画していたのだが、途中で気が変わり、中央の部屋からはドアを無くして全面窓だけにした。
中央と右の部屋は、コネクティングルームなので必要ないと判断したからだ。
最近現場をまわっていると、この2×4メートルのバルコニーがどうも気になる。
そこに行くと、何かが、神の声が聞こえるのだ。
風にそよぐ椰子の葉音よりもずっと小さい声が、アルコールが流れているフウテンの脳みそに囁(ささ)いてくる。
『それでいいのか~ぁ?』
バルコニーといっても今は足場の角材が林立して、他の場所同様、まともに歩けない空間だ。
しかし『現場総監督』という立場のフウテンだ。
フラフラと毎日、頭をぶつけないよう鉄筋や角材を避けながら、イカニモ責任者の態度で徘徊している。
ある時、気が付いた。
このバルコニーは、実に控えめなのだ。
可哀そうなのだ。
これじゃ、まるで半世紀前の公団住宅の『ベランダ』というヤツだ。
私は、貧乏性のせいか、建物の外枠の範囲内でのバルコニーしか思い付かなかった。
ダメダ! ダメダ! だめだ!
もっと大きくしなければ。
スペースはいくらでもあるんだ。
聞こえてくる声は、あれは『もっと、お~きく~!』という、天の声だったのだ。
神様のお告げだ!
そうと判ったフウテンは、さっそく大棟梁のエンボイを探す。
いたいた。
「エンボイ、2階のバルコニーなんだけど、ありゃダメダ!」
「どう見ても、小さすぎるぞ!」
(私は、自分で設計したのを棚に上げて、文句を言う。)
「もっとドーンと広げようぜ!」
エンボイ:『どのくらい伸ばす?』
私:「下に新規の柱を建てないで済む、限界までだ。」
「宴会ができるくらいまで、ギリギリ、レッドゾーンまでだ。」
(レッドゾーンという表現は、もちろん彼には分からない。)
エ:『そんな事云っても、雨が当たるから・・・(メジャーで計りながら)・・・雨樋があるレベルまで、あと75センチだ。』
私:「お前、カソリックだろ! これは神様のお告げなんだぞ。 わかるだろ~」
全く食えない奴だ。
レッドゾーンと言ったろうが。
バルコニーの床はタイルだ。
雨が降ったら、濡れてもいいし、濡れるのが嫌なら部屋に入ればいいだけだ。
この男の工事に対する考え方を聞いていると、杓子定規で、たまにどっちが日本人だか分からなくなる。
とにかくやろう。
まあ、いい、あと75センチでも、畳み2枚分は広くなるのだから。
今からなら、ビームを少しハツリ鉄筋を引き出すだけで、コストも軽い。
間に合ってよかったのだ。
(というわけで、型枠を組んで、ビーム(梁)をはつって、鉄筋を出す作業を始めた)
これで私は”我儘”と云うか望みが通せるし、彼らは仕事(=給料)が増えるので文句は云わない。
”ウィン・ウィン”ってヤツだ。・・・と納得しておこう。
この変更で、バルコニーは6畳強の広さになる。
ってことは・・・・
海と空とヤシの木に向かって、大音量でカラオケでもできるのだ。