世界で一つのキャビネットを作るぞ
(丸めて売っている『アマカンシート』、サイズは8×4=120センチ×240センチ)
バンブー(=日本の竹に近い)で編んだシート。
フィリピンや東南アジアの、ド田舎の、どちらかと云えば貧しい庶民の家の壁材である。
熱帯では、蓄熱するブロック積みの壁に比べ涼しく、断然安く軽く機能的である。
少なくとも私が泊めて貰ったジャングルの家々の壁は、高床の家屋では、ほとんどコレだ。
(アップ画像)
編み方と、素材の裏側と表側の違いを上手く組み合わせて、幾つかの柄と云うかデザインを表現できる。
さて、ウチの1階のラウンジに置くキャビネットだ。
駆け足で探したが、やはり「コレッ!」といった出物が無い。
「イイナーッ」、と思うと超高価だったり、古材木風な見事な木目が、実はプラスチックシートのプリントだったりする。
ダイニングテーブルとチェアーは、当初は自作しようと考えていたのだが、時間的に間に合わず家具屋さんで買い求めた。
だったら、「その代わりにキャビネットを自作すればいいんジャン」、と思いついた。
リゾートのラウンジに置くキャビネットである。
石壁とマッチするようなキャビネットである。
この世にふたつとない様な・・・・
「ウ~ム」と思考する時間は、朝の3時とか4時ごろである。
手足に毎日筋肉痛があるほど身体はけっこう疲れているのだが、よる年波のせいか、その時刻に目が覚めて眠れなくなることが多い。
起きるには早いのでベッドにジットしてはいるが、たいてい工事のことをああじゃ、こうじゃと考えている。
・・・ウ~ン、キャビネットは『物を置く』という機能からプランを練っていくと、つまらない!
・・・今回はキャビネット自体が、『置き物』であり『飾り物』である、と考えてデザインを決めよう!
それにしてもまだ真っ暗だ。無理にでもまた寝ようかな~、
などと思ううちに空は白ける。
ビーチに行って日の出を拝む(←毎朝の習慣)ために起きてしまう。
水平線の日の出が、俺を呼んでいる。
敷地をテクテクとビーチに向かいながら・・・・いや待てよ、『家』という物も、いわゆる器(うつわ)、『キャビネット』のひとつではないのか。
つまり人間や人間に必要な物を収納するのが、『家』の第一の機能である。
家がキャビネットなら、キャビネットに家のようなキャビネットが有っても、おかしくはないだろう。
スイマセン。
ちょっと理解し難いかも知れないが、私は既成概念と言うものから外れるのが、嫌いではない。
家の中の家、キャビネットの中のキャビネットである。
家といえば、フィリピン伝統のニッパハウス!
『ニッパハウス』とは、ニッパヤシの葉で屋根を葺き、壁は普通アマカンシート=冒頭画像(竹を薄く削いで編んだシート)の家だ。
柱は安いココヤシ材木やそこらにある丸太を使っている。
そのニッパハウスを模したキャビネットを私は作りたい!
ぜひとも作りたい!
急にそう感じたからしかたない。
(屋根材=ニッパ、90センチ×40センチ位)
(竹を芯にニッパ椰子の葉を折り曲げてある屋根材)
キャビネットの天板が平らでなければならぬ、と誰が決めた。
キャビネットは機能的に収納できないとダメだ、と誰が決めた。
このさい、そんなコタ~ァ、まっぴらゴメンだ。
丹下健三がナンだ!
黒川紀章がどうした!
私は、フウテンおやじだ!
(冥界の丹下様、黒川様、およびその関係者の方々、冗談です、ごめんなさい。)
丸1日プランをあたためて、翌日の朝5時頃、早速ラフを頭に描いた。
現場の昼休みに、キャビネットの設置場のサイズをチェックして、材料を検討した。
奥様Mに話すと、「ソレ、イイね~。やって、やって~ん。」と言ってくれた。
余程のことが無いかぎり、私の考えたことに「NOー!」とは言わないMは、うい奴だ。
(バカメ、後で後悔するとも知らないで。)
図面をおこして、大工のDに見せる。
Dは・・・しばし無言だ。
一応私は彼らのボスであるから、ムゲにDは、「なんだぁ、こりゃ~!」とかは言わないが、その顔には書いてある。
私はDにあらためて説明する。
・・・これは次に作る、『キャビネット』なのだ。
ニッパ(ヤシの葉)の屋根をつける。
そして壁面はアマカンシートを貼る。
(ここらで巨匠のDは、何がなんだか分からなくなっている。)
構造材には、工事の型枠で使ったココランバー(ココヤシ材)、棚板はボロ屋の古材木、床材を剥がしてきて使う。
ベニヤなどの新建材は一切使わない。
そして色ペンキは塗らない。
紙ヤスリをかけてニスで仕上げるだけ。
あるがままの古さや傷をそのまま残す。
そしてDよ。
「肝心なことだが、このキャビネットの真ん中に、丸太の柱を1本通す!」
「DAIKOKUBASHIRA だ!」
もう巨匠の頭の中は、????だらけ・・・。
Dよ、(両手で直径15センチくらいの輪を作り)、「まず、このくらいの太さの枝を敷地の中の木から探して、切ってきてくれないか。」
「キャビネットの中に柱を立てるから。」
しばらく他の作業を見回ってから、Dのところに行くと、こんな大きな丸太の皮を剥いていた。
8これはひょっとすると・・・)
(ヘルパーが木肌を整えていた)
こりゃ~、ずいぶん太い枝を切ってきたな~。
待てよ~、こんな太い枝のある木がウチに有ったっけ?
いや、無い!
「どこから切った?」
と聞いて見に行くと、木を一本思い切り根元から切られていた。
その木はコテージを作るときに、私が、大柱にしようと目論んでいた木だった。
参ったな~。
しかし切ってしまったものは、もう仕方ない。
これでキャビネットの重さが、100キロをゆうに超えることは確定した。
ところでその木は、『リム(LIM)』という名の木だ。
非常に堅く重く、白アリも食えず、しかも強い木なので、昔から伝統家屋の柱に使われていた。
今では商用伐採禁止、希少材でマホガニー以上に貴重な木なのだ。
やってくれた。
Dの奴め。
本物の『家』を作る気らしい。
サイズを見ろ!図面の。
大きさが家じゃないだろ。
キャビネットだっつ~の。
柱はタダの飾りだっつ~の。
(・・・・続く。)