水道屋さんがやってきた
ウチの現場に、フラフラと男が入ってきた。
坊主頭の小柄で太ったおやじ。
エンボイと話し込んでいる。
私は近くのワーカーに、「ナンダありゃ?」と聞くと、水道屋だという。
まだ水道配管をする段階ではなかったし、水道局関係の人材に工事を委託するハラもあったが、マァ話だけはしておこうと考えた。
私: 「エンボイ、彼は?」
エンボイ: 「プラマー(配管工)だ。」
その男は私を無視して、しきりに配管工事の内容をエンボイと相談する。
畏れ多くも、現場監督であるこの私を無視してだ。
(そうくるか、なら、しばらくほっておこう)、と私は思い他へ移った。
ひと時あって、2人は私のところへ来た。
エ: 「こいつに水道工事をやらしてくれないか?」
「プロフェッショナルで腕はいいんだ。」
私: 「お前も知ってるように、まだ水道工事は早いだろ。」
「だいたいだなぁ、どんな配管を作るか知ってるのか?」
(この時点では、私は配管図面を仕上げておらず、したがってエンボイは知らない。)
「(それなのに・・・)幾らで受けるといってるんだ。」
そのオヤジに向かい、「君はシャワー用の電気温水器とか、家庭用貯水タンク、プレッシャーポンプ&タンク、水洗トイレとか見たことあるのか?」
(先ほど無視されているので、私も意地が悪い。)
ひとしきり苛めてから、私は当人に工事の大方の内容を説明し始めた。
そして、工事に必要なだいたいの日数を聞くと分からないと言う。
「何人で何日間かかると思う?」と分かりやすく聞くと、午後しか仕事できないし、仕事するのは助手と2人だけで4時には上がるという。
「ナンジャ、ソリャ!?」と思ったが、その時点では、ソウカそうかと聞いておいた。
私フウテンは、水道工事は、地元O市の水道局関係の職人が無難で良いと思っていた。
しかし、電気工事をO市の電力会社関係人に委託して、難渋している現状があった。
そこである日エンボイに、「この間の配管屋に明日から来るように言っておいて。」と伝えたのだ。
その頃には、私の中では水道配管のプランが出来上がっていて、図面もほぼ出来ていた。
果たして翌日、配管工は助手と共にやって来た、やはり午後からだったが。
英語なんて理解できそうも無いので、タガログ語で話す。
私は彼らのビサヤ語がよく分からない。
図面を見せて説明するが、やっぱりどうやら図面が読めないようだ。
(別に期待はしていなかった)
図面を書く理由は、私自身が、プランを練るためと忘れないため、それだけなのだとすでに割り切っているから。
(エンボイ組と同じように、工事内容をいちいち現場で説明し、頻繁にチェックし、ミスがあればやり直しさせるという進め方になる)
何度も言うが、こんな田舎にはちゃんとした職人、技術者などは”絶対”と言っていいほど居るわけは無いのである。
みんな普段は、日がなゴロゴロして、魚を獲ったり、荒れ地にとうもろこしを蒔いたりして、たまに建築や土工の手間賃仕事が入っても、近所の家の工事とかなのである。
腕があり、働く気があり『稼いだろ~か!』という人材は都会へ、そして外国に出てしまうのだ。
言っちゃあ悪いが、残っているのは『カス』ばかりなのだ。
但しカスの中にも、磨けば光る玉がいるので、それを探し、私なりに鍛えてみたいのも彼らを雇用する目的だ。
しかし、私が工事の作業員を近所の村人で賄っている本当の理由は、地元にお金を落としたいからなのである。
フィリピンだって、都会の建築士に頼み契約すれば、そこそこまともな家は出来る。
現にうちのクラブハウスくらいの規模の工事は、通常はセブ市やマニラなどの都市の洗練された業者が請け負い、作業員は遠くから泊り込みで仕事に来るケースが多いのだ。
が、それをしては、この田舎町には1ペソもお金は落ちないだろう。
私はフィリピンで長く住んでいる。
この国で生かされている。
今までずっと、フィリピンの田舎のビーチ沿い専門だ。
マニラやセブ市などの都会、それとウンと山奥のジャングルは、性に合わない。
普段は文句ばかり言っているが、田舎のおバカな連中が決して嫌いではない。
『恩返し』とまではいかないが、地域社会のために私が出来ることはするべきだと思う。
日本ではすでに地域格差は古い話になったが、フィリピンでは田舎の人はお金が無いために、本当に貧しい暮らしぶりなのだ。
『貧困』と呼ぶべき人も多い。
だから多少建築の質が落ちようと、私は地元の人を雇用したいのだ。
私に分かることは彼らにアドバイスして、ヘタは下手なりに努力してもらい、適度にちゃんとした建物を創り上げたい。
そうすることによって、田舎のトボケた職人達とインチキ現場監督だけでも、まともな家が出来ることを証明したいのだ。
そうすれば、今後は、地元に発注し、地元の職人を使って大きな家を建てる人が出てくるかもしれない。
地元の雇用を増やすことが、私の真の狙いだ。
かりに最悪の目が出ても、彼らには良い経験と収入をもたらすのだ。
私はへそ曲がりのフウテンだ。
他人と同じ事をしたいとは思わない。
ソツの無い優等生より、ちょっと不良に親しみを感じる。
頭のいい奴より、チョットぬけた野郎の方がカワイイのだ。
世渡り上手は、好きじゃない。
昔からトヨタよりマツダがいい。
絶世の美女などはクソくらえだ・・・(と言っておこう)。
(これでも仕事中です)
そんなこんなで、たまに腹を立てながらも、このあきれ果てた連中と一緒に、今後も工事を続けていくつもりである。
話がそれたし、長くなった。
水道屋さんの続きは、また明日と言う事でご勘弁を。