ビーチボーイ&ビーチガールのクロニクル

南国ビーチで、ゼロからリゾートを建設し、営業し暮らした記録です

敵が、出現した



(上の画像は、配達されたヤシの材木をチェックしているスタッフ。当然だが不良品は返品できる。資材店はそれらをまた他所へ持っていく。ババ抜きみたいなものだ。)



今日も現場に行った。
材料の配達状況のチェック。
工事のチェック。
敷地のチェック。
ボロ家のチェック。
チェック、チェック、チェック、この国ではチェックチェックチェック・・・
なんでも、何度もダブルチェック、トリプルチェック。
それをしないと何も出来ない、進まない。
まことに効率の悪いシステム、国である。



海のほうをチェックしていると、伊東四郎を縦に圧縮したようなオヤジがフラフラとやって来た。
隣の土地に勝手に家を建て、住んでいる家族の長だ。
言ってみれば『スクワッター(不法占拠者)だが、フィリピンではよくある話。
いかにもひと癖ありそうな、オヤジ。
曰く、「このマホガニーの木は俺のだから切るけど、いいか?」
明らかにこちらの敷地の中にある高さ8メートルほどのマホガニーをさして言う。
私、「オヤジ、その木はうちの敷地の中にあるんだから、うちのだろ?」
ついでに言いたいが、奴の小汚い船、洗濯物干し、ゴミなどなど全部こちらの敷地の中にある。
オヤジ、『いんや、この木はうちの子供が生まれたときに俺が植えたから、俺んだ。』
私、
(私もオヤジだが、私は自分のことをオヤジとは認めないので、この場合のオヤジは、この伊東四郎だけを指す。)
「なんだそりゃ? 人の土地に木を植えたら自分の木になるのか? 初耳だぜ。」
オヤジ、『この木は俺が植えたから、俺のだ。』
とラチが開かない。


そういえば、2ヶ月ほど前に測量の為にこの土地に来たとき、うちの者がちょっと水を使ったら、あとから『水代、20ペソ払ってくれ。』と言ってきたのはこのオヤジだ。
その水道の蛇口も、勝手にこちらの敷地内にあったのだ。
管理人に「あのオヤジは何者なんだ。」と聞くと、『口うるさい年寄りだから・・・。』とのこと。
この村では、まったく『よそ者』である私としては、今から敵は作れないので、ほって置くことにする。
フィリピンは、仲間意識が強い。



以前いたバタンガス州でこういう事があった。
私の住んでいたバランガイ=村というか部落)で、独身男が亭主持ちの女と出来て、それが亭主にバレタのだ。
二人とも私の近くの知り合いだ、当人達も私の友人だった。
亭主は怒りに狂い、古いコピー拳銃を持ち出し、部落中その男を追っかけまわした。
結局、男は自分の故郷の隣の島(船で20分ほど)の村に逃げた。
これで事件は一件落着となった。


「えっ、なんで?」と普通思うだろう。
しかしこれがフィリピンなのである。
仮に、亭主(=よそ者)がその村に入り男を懲らしめれば、こんどは男の親戚が黙っていない、亭主が五体満足で帰る事は難しいのだ。
およそフィリピンの田舎では、日本人より『村意識』『仲間意識』が圧倒的に強い。
反面、自分の村を出れば外国のようなものだ。
よく言われることだが、この国では重犯罪を犯した者でも、よその島、よその土地へ行けば普通に暮らせる。
一部の人達にとっては、非常に住みやすい国である。

工事の初日



(某年、午前8時30分現場着)


ジャジャーン!
私は、黄色い暴走セレスバス(乗合い)からドタッと降り立った。
きちんと停止してくれないので、気を付けないと転ぶ。
場所は、セブ島南部のO市。
目の前には、フィリピンの伝統的な木造家屋、2階建ての廃屋が威圧するように建っている。




今日からいよいよ始まりだ。
決闘に行くガンマンの心境である。
腰にガンベルトがあったら、間違いなく銃の装弾を確認しただろう。
冗談ではない。
確かに、今日からこの廃屋の後方に広がる土地が、私の長期の戦場となるのである。
今日から始まる私の戦いは、この土地にビーチリゾートを創ることである。
1500平米の細長い土地に、応援してくれるお客さんや友人がくつろげる施設をおったてることだ。
完成すれば私の勝ち。
挫折すれば、負けである。
勝ちか負けか、勝負はどちらかしかないのである。
結果は神のみぞ知る。
ふと前を見るとボロ屋の陰に敵が6人。
いや、敵ではなかった、ありゃ味方だった、手はじめに雇ったワーカー6人が、黙々と穴掘りしていた。
知っているのは、かしらを頼んだエリックだけ、他の連中は知らない。
「みんな!おはよう!」「まじめにやってるか?」
「イエッサー!」
当たり前だ、いくらフィリピン人でも初日からはサボらない。
廃屋に住ませている雇用した管理人に、メンバーの名前を聞いてメモする。
長年の酒で鍛えられた私の脳みそは、記憶力が弱点だ。
この溝はブロック塀の基礎である。
この国では、土地を買ったらすぐ塀を建てないといけない、というのは常識だ。
そうしないといろいろ面倒が起きることがある。
それから歩いて海岸までの敷地、土地の境界の石などチェックする。
エリックと必要な材料の打ち合わせ。
セメント、ブロック、鉄筋、針金、材木、ドラム缶、ホース、バケツ・・・などなど。
オーッ、またお金が出て行く。
これから毎日のように、カネがバサバサと飛んで出ていく日々の始まりだ。
ついでに、「今日は初日だ!」「終わったらみんなで飲め!」と200ペソ、エリックに渡す。
200ペソ=500円、6人で200、ケチクセーな、と思わないでネ。
この国の人には、金は無いと思わせても、有ると思わせてもいけない。